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大阪地方裁判所 昭和59年(ワ)1821号 判決 1985年4月26日

原告

姜冨子

被告

三島伸二

ほか二名

主文

一  被告らは各自原告に対し、金六九八万七一五八円及びこれに対する昭和五七年一月一九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その七を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告に対し、金三四五一万二〇一九円及びこれに対する昭和五七年一月一九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五七年一月一九日午後一〇時五〇分頃

(二) 場所 大阪市平野区加美東二丁目六番一四号先交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 加害車 普通乗用自動車(大阪五八る六八五六号、以下「被告車」という。)

右運転者 被告三島

(四) 被害者 原告

(五) 態様 本件交差点において、北から南に進行中の被告車右側前部と西から東に進行中の原告運転の原動機付自転車(以下「原告車」という。)前輪とが衝突し、原告が転倒したもの

2  責任原因

(一) 被告三島

(1) 運行供用者責任(自賠法三条)

被告三島は、被告車を所有し、自己のために運行の用に供していた。

(2) 一般不法行為責任(民法七〇九条)

被告三島は、左右の見通しが困難な本件交差点に進入するに当り、一時停止または徐行のうえ左右の安全を確認することを怠り、漫然時速約五〇キロメートルのまま進行した過失がある。

(二) 被店東京海上火災保険株式会社(以下「被告東京海上」という。)

被告三島は、本件事故当時被告東京海上との間で、被告車につき自賠責保険契約を締結していた。

(三) 被告同和火災海上保険株式会社(以下「被告同和火災」という。)

被告三島は、本件事故当時、被告同和火災との間で被告車につき自家用自動車保険契約を締結していたところ、同保険契約約款一章六条一項によれば、対人事故によつて被保険者である被告三島の負担する法律上の損害賠償責任が発生したときは、保険会社である被告同和火災は、被保険者に対して填補責任を負う限度において、損害賠償請求権者である原告に対し、その損害を支払う義務がある。

3  損害

(一) 受傷、治療経過等

(1) 受傷

頭部外傷Ⅱ型、頭蓋骨々折、外傷性頸部症候群

(2) 治療経過

入院

昭和五七年一月一九日から同年二月三日まで生野優生病院に入院し、退院後、松永整骨院(実日数七五日)、大阪警察病院、大阪大学医学部付属病院、生野優生病院、及び新生野優生病院に各通院して治療を受けた。

(3) 後遺症

胸鎖乳突筋他頸部筋群圧痛、大後頭神経他頭皮各部圧痛、外傷性嗅覚障害(脱失)、味覚障害が昭和五八年二月九日ころ症状固定した(自賠法施行令二条別表等級七級相当と考えられる)。

(二) 治療関係費

(1) 治療費

生野優生病院 七一万五一八〇円

大阪警察病院 一万八三〇〇円

松永整骨院 一四五万九一〇〇円

大阪大学医学部付属病院 七万九〇八〇円

(2) 入院雑費 一万六〇〇〇円

入院中一日一〇〇〇円の割合による一六日分

(3) 入院付添費 五万六〇〇〇円

入院中一日三五〇〇円の割合による一六日分

(4) 自宅付添費 三三万二五〇〇円

自宅療養中原告の母が付添い、一日三五〇〇円の割合による九五日分

(5) 通院交通費 二九万四〇〇〇円

通院一日二〇〇〇円の割合による一四七日分

(6) 通院雑費 三万六七五〇円

通院一日二五〇円の割合による一四七日分

(三) 逸失利益

(1) 休業損害

原告は事故当時、スナツク経営責任者として勤務し、少なくとも一か月平均二八万九〇〇〇円の実収入を得ていたが、本件事故により、昭和五七年二月一日から昭和五八年二月二八日まで一三か月間休業を余儀なくされ、その間三七五万七〇〇〇円の収入を失つた。

(2) 後遺障害に基づく逸失利益

原告は、前記後遺障害のため、その労働能力を五六パーセント喪失したものであるところ、原告の就労可能年数は三一年間と考えられるから、原告の後遺障害に基づく逸失利益を年別ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、左記算式のとおり三五七七万五〇五五円となる。

(算式)

二八万九〇〇〇×一二×〇・五六×一八・四二一=三五七七万五〇五五

(四) 慰藉料 入通院分 一二〇万円

後遺症分 六六九万円

(五) 弁護士費用 二〇〇万円

4  損害の填補

原告は被告らから五七一万一七六〇円の支払を受けた。

5  よつて、原告は被告ら各自に対し、損害賠償金内金二四五一万二〇一九円及びこれに対する本件不法行為の日である昭和五七年一月一九日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

1  被告三島及び被告同和火災

(一) 請求原因1は認める。

(二) 同2(一)(1)の被告三島が被告車を保有していたことは認める。(2)は否認する。(三)は認める。

(三) 同3(一)は(2)の内松永整骨院への通院実日数は認め、その余はいずれも不知。(二)ないし(六)は争う。

(四) 同4は認める。

(五) 同5は争う。

2  被告東京海上

(一) 請求原因1は不知。

(二) 同2(一)(1)は争い、(2)は不知。(二)は認めるが責任は争う。

(三) 同3の(一)は(2)の内松永整骨院への通院実日数は認め、その余は不知。(二)ないし(五)はいずれも不知もしくは争う。

(四) 同4は認める。

(五) 同5は争う。

三  被告らの主張

(過失相殺)

本件事故の発生については、原告にも、原告車を運転して東進走行してきて、見通しが悪く一時停止標識も設置されている本件交差点に進入するに当り、一時停止のうえ左右の安全を確かめることを怠り、漫然時速一五キロメートルで走行した過失があるから、損害賠償額の算定につき八割過失相殺されるべきである。

四  被告らの主張に対する原告の認否

被告らの主張は争う。本件事故発生についての過失割合は原告四、被告六である。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  事故の発生

いずれも成立に争いのない乙第一号証ないし第四号証によれば、請求原因1ないし5の事実が認められる(原告と被告三島及び被告同和火災との間では争いがない)。

二  責任原因

1  被告三島(運行供用者責任)

前掲乙第三号証によれば、被告三島は、本件事故当時被告車を保有していたことが認められる(原告と被告三島及び被告同和火災との間では争いがない。)から、被告車を自己の運行の用に供していたものであり、自賠法三条により、本件事故によつて原告が蒙つた損害を賠償する責任がある。

2  被告東京海上(自賠法一六条による被害者請求)

被告三島が本件事故当時被告東京海上との間で被告車につき自賠責保険契約を締結していたことは原告と被告東京海上との間で争いがないところ、被告車の保有者である被告三島の原告に対する損害賠償責任が発生したことは右1で認定のとおりであるから、被告東京海上は、自賠法一六条により、原告に対しその損害賠償額の支払をなすべき義務がある。

3  被告同和火災(保険約款による直接請求)

被告三島の原告に対する本件事故による損害賠償責任が発生したことは右1で認定のとおりであり、被告三島が本件事故当時被告同和火災との間で被告車につき自家用自動車保険契約を締結していたこと及び同保険契約約款一章六条一項により被告同和火災が原告に対し、その損害賠償額の支払をなすべき義務を有することは原告と被告同和火災との間で争いがない。

三  損害

1  受傷、治療経過

いずれも成立に争いのない甲第一号証ないし第六号証、第八号証ないし第一〇号証及び丙第二号証ないし第四号証並びに原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故により頭部外傷Ⅱ型、頭蓋骨々折、外傷性頸部症候群等の傷害を負い、昭和五七年一月一九日から同年二月三日まで生野病院に入院し、同月四日大阪警察病院、同日から同年五月一六日まで(実日数一六日)生野病院、同年二月一八日から松永整骨院(実日数が七五日であることは各当事者間に争いがない。)、同月二二日から昭和五八年一月二二日まで(実日数九日)大阪大学医学部付属病院、昭和五七年九月二二日から昭和五八年二月九日まで(実日数一一日)新生野病院に各通院して診療を受けていたが、後遺症として頸部及び頭部圧痛、嗅覚脱失、味覚障害が昭和五八年二月九日ころ症状固定したことが認められる。

2  治療関係費

(一)  治療費

前掲丙第四号証いずれも成立に争いのない甲第一一号証、第一三号証、第一五号証によれば、原告は右症状固定日までの診療のための費用として次のとおり合計二二六万六八六〇円の損害を蒙つたことが認められる。

生野優生病院 七一万五一八〇円

大阪警察病院 一万八三〇〇円

松永整骨院 一四五万九一〇〇円

大阪大学医学部付属病院 七万四二八〇円

なお、原告主張の大阪大学医学部付属病院での治療費の内右認定額を超える部分は、前記症状固定後の治療に要したものと認められ、原告の前記受傷及び後遺症の程度を考え合わせると、本件事故と相当因果関係がないものと認める。

(二)  入院雑費

原告が一六日間入院したことは、前記のとおりであり、右入院期間中一日一〇〇〇円の割合による合計一万六〇〇〇円の入院雑費を要したことは、弁論の全趣旨及び経験則によりこれを認めることができる。

(三)  入院付添費

前掲丙第二号証、弁論の全趣旨及び経験則によれば、原告は前記入院期間中付添看護を要し、その間一日三五〇〇円の割合による合計五万六〇〇〇円の損害を被つたことが認められる。

原告は、退院後自宅療養中の九五日間についても一日当り三五〇〇円の割合による付添費相当の損害を蒙つたと主張するが、原告の症状が自宅療養中も付添を必要とするものであつたことは認められないから、右主張は理由がない。

(四)  通院交通費

弁論の全趣旨によれば、原告が前記通院につき公共交通機関を利用した場合に要する料金は、生野優生病院、新生野優生病院、大阪警察病院及び松永整骨院については一日往復三四〇円、大阪大学医学部付属病院については一日往復四〇〇円であると認められるところ、原告は、前記のとおり症状固定日まで生野優生病院に一六日、新生野優生病院に一一日、大阪警察病院に一日、松永整骨院に七五日、大阪大学医学部付属病院に九日各通院しているから、原告の右通院交通費の合計は左記算式のとおり三万八六二〇円となる。

(算式)

三四〇×(一六+一一+一+七五)+四〇〇×九=三万八六二〇

原告の主張する通院交通費の内右認容額を超える部分は、タクシー利用によるもの、あるいは後遺症状固定後の通院治療のために要したものと認められ、前記本件受傷及び後遺症の程度等の事情を考え合わせると、本件事故と相当因果関係がないものと認める。

(五)  通院雑費

原告は、通院一日当り二五〇円の割合による通院雑費相当の損害を蒙つたと主張するが、本件事故と相当因果関係のある雑費を支出したことを認めるに足りる証拠はないから、右主張は理由がない。

3  逸失利益

(一)  休業損害

証人岡久史の証言により真正に成立したと認められる甲第一六号証、証人岡久史の証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められ、右認定を左右する証拠はない。

原告は、本件事故当時三五歳の主婦で、夫及び三人の子供と共に生活するかたわら、昭和五五年一月から岡久史の経営する東大阪市内のスナツク店に勤務し、店長として客の接待に当るなどして稼働し、一か月三五万円の給与を得ていたが、接客のためにあつらえる衣服代等の経費として少なくとも右収入の二割を要するものと考えられるから、原告の本件事故前の実収入は二八万円となる。原告は、本件事故により以後休業したが、前記受傷内容、治療経過等諸般の事情を考慮すれば、右休業期間中の収入の逸失の内昭和五七年一月一九日から同年四月三〇日までの一〇二日間は一〇〇パーセント、同年五月一日から後遺症状の固定した昭和五八年二月九日までの二八五日間は九〇パーセント(左記算式のとおり三三四万六〇〇〇円となる。)が本件事故と相当因果関係のある休業損害と認めるのが相当である。

(算式)

二八万÷三〇×(一〇二+二八五×〇・九)=三三四万六〇〇〇

(二)  後遺障害に基づく逸失利益

原告は、後遺症状固定後五〇歳に達するまでの一四年間は前記スナツク店勤務により一か月二八万円の実収入を得られ、以後六七歳に達するまでの一七年間は主婦として同年齢の女子平均賃金と同額程度の収入(昭和五八年度賃金センサス産業計、企業規模計、学歴計女子五〇歳ないし五四歳の平均年収は二二三万三九〇〇円)を得られたものと考えられるから、原告の後遺障害に基づく逸失利益を年別ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、左記算式のとおり一〇五七万四七一八円となる。

(算式)

二八万×一二×〇・二×一〇・四〇九四+二二三万三九〇〇×〇・二×(一八・四二一四-一〇・四〇九四)=一〇五七万四七一八(端数切り捨て、以下同じ)

4  慰藉料

本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、治療の経過、後遺障害の内容程度その他諸般の事情を考えあわせると、原告の慰藉料額は三八〇万円とするのが相当であると認められる。

四  過失相殺

1  前掲乙第一号証ないし第四号証並びに原告及び被告三島各本人尋問の結果(いずれも後記採用しない部分を除く。)によれば、次の事実が認められる。

本件交差点は、南北に通じる幅員六・一メートルの道路と東西に通じる幅員五メートルの道路が交差しており、本件交差点北西部分には電柱が設置され、また、その付近には看板が立てられており、南進車両にとつて右側(西方)、東進車両にとつて左側(北方)の見通しはいずれも不良である。右各道路はいずれも最高速度が時速二〇キロメートルと指定されており、右南北に通じる道路は南行の一方通行とされ、右東西に通じる道路は、本件交差点手前に停止線が描かれ、一時停止の標識も設置されている。

被告三島は、本件事故当時、被告車を運転して、右南北に通じる道路の中央付近を本件交差点に向かつて時速約三〇キロメートルで南進走行してきたところ、本件交差点北詰から約七・七メートル手前の地点で、右前方の東西に通じる道路上の本件交差点西詰から約四メートル西側付近を東進走行してくる原告車を認めたが、原告車が減速しているようだつたので本件交差点手前で一時停止するものと軽信し、自らは減速することもなく時速約三〇キロメートルのままで約五・七メートル進行したところで、原告車が右前方約五・一メートルの本件交差点西詰付近に進入してきているのに気付き、急制動の措置を講じたが及ばず、約四・八メートル前進した本件交差点中央部分で被告車右側部を原告車前輪に衝突させ、原告を転倒させた。他方、原告は、原告車を運転して、右東西に通じる道路の中央付近を本件交差点に向かつて時速約三〇キロメートルで東進走行してきて、前記一時停止の標識があるのを認めて時速約一五キロメートルにまで減速したが、被告車に気づくことなく本件交差点に進入したところ、本件交差点西詰付近で左前方約四・二メートルの地点を南進走行してくる被告車に気づき、急制動の措置を講じたが及ばず、約二メートル前進した本件交差点中央部で前記のとおり被告車と衝突し、転倒した。

原告及び被告三島各本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らし採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  右認定によれば、被告は、被告車を運転して本件交差点に進入するに当り、右方から本件交差点に進入してくる車両の動静を注視して安全な速度にまで減速して走行すべき注意義務があるのにこれを怠り、制限時速を一〇キロメートル超える時速約三〇キロメートルで走行し、原告車を認めながら本件交差点手前で停止するものと軽信し、減速することなく本件交差点に進入しようとした過失があり、他方、原告は、原告車を運転して本件交差点に進入するに当り、標識に従い本件交差点手前で一時停止して、左方を注視のうえ進行すべき注意義務があるのにこれに怠り、時速約一五キロメートルに減速したのみで、左方に十分注視せずに本件交差点に進入した過失があると認められる。

3  右認定の原告及び被告の各過失の態様並びに車種の相異等諸般の事情を考え合わせると、本件事故発生についての過失割合は原告が四割、被告が六割と認めるのが相当である。

4  従つて、原告の前記損害額二〇〇九万八一九八円から四割を減じて損害額を算出すると一二〇五万八九一八円となる。

五  損害の填補

請本原因4の事実は、各当事者間に争いがない。

従つて、原告の前記損害額から右填補分五七一万一七六〇円を差引くと、残損害額は六三四万七一五八円となる。

六  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、原告が被告らに対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は六四万円とするのが相当であると認められる。

七  結論

よつて、被告らは各自原告に対し、金六九八万七一五八円及びこれに対する本件不法行為の日である昭和五七年一月一九日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 長谷川誠)

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